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息子の人生に幸あれ
一般社団法人京都手をつなぐ育成会 髙木 千種

  息子は、一週間前の11月24日に満50歳の誕生日を迎えました。当日はこれまでの誕生日と同じように、苺の乗った大好きなケーキにローソクを立て、ハッピーバースデーの歌を歌い家族でお祝いしました。

  何歳になっても、誕生日はこんなセレモニーでお祝いしています。
生を受けてからの50年の間に福祉制度はずいぶん変わり、現在は誰もが地域生活を選べる時代と言われています。息子も二年半前に良い縁を頂き、グループホームへ入居いたしました。

 

  息子の状況をお話ししますと、
息子の障害は重度自閉症で、療育手帳A・区分認定5です。

  小さい頃から自閉症と言われる多くの人たちと同じように、視線が合わない、多動で勝手に動き回る、どこでも場所をかまわずピョンピョンと飛び跳ねる、泣いたり、笑ったり、怒ったり喜怒哀楽を表す事も難しい状態の子供で、家族さえ本人の思いをくみ取ることがなかなか大変でした。

  びっくりするエピソードは山ほどあって、小学校に上がる前に見失ったと思えば25キロも離れた所で見つかったり、高速道路を自転車で逆行して走り高速警察のお世話になったり、思春期の頃は、学校を飛び出して東山通りをストリーキングまでしてしまいました。
そんな行動は本人にとって何か理由があったんだろうと思うのですが、私の心はただ塞がるばかりでした。私は、日々の生活にとても疲れており、朝を迎えるのが辛い時期でもありました。

 

  しかし、子供が大きくなるにつれて、毎日をただくたびれているだけではいけない、何とかしたいという想いを強く持ちました。
・まず、勝手に動き回る息子を、どうしたら少しの時間でも、一つの場所に留めさせられるのかと考えました。
・そして恐ろしいほど凄まじいエネルギーをどうしたら発散できるのかを考えました。いろいろな経験ができてアクティブに行動できる活動の場を探しました。
・少しでも集団行動が身に着くような場を探しました。
・興味を示すことを見つけたいと思い、息子の行動を見ていると水が好きだから水泳教室。
・泥んこ遊びが大好きだから陶芸教室。
・動き回るのが大好きなのでハイキングや軽登山といった活動となり、そんなことを視野に入れて、サークル活動に参加させて頂きました。あれやこれや経験を重ねるうちに、全く無関心であつた仲間にも離れた所からでも動きを気にするようになり、本人の中に仲間意識が芽生えていくのを感じました。

  近衛中学の育成学級に通う頃に担任の先生から育成会の青年学級の事を聞かせて頂きました。青年学級は、学校卒業後の学びや仲間の人たちの交流があり、社会に出て様々な試練にぶち当たっても、自分を取り戻すことができて、仲間同士が支え合う大切な時間を過ごすことが出来る場所です。息子は高等部卒業後から、様々な活動の場を大切にしながら、多くの皆さんのご指導やご支援を頂き仲間の力を借りながら、生活しています。

 

  グループホームの入居にあたってですが、何年か前まで、私は息子の人生を自分の人生と重ねて、この子のために何ができるかと、二人分の人生を頑張らねばと必死な想いで走り続けていました。

  さまざまな経験の積み重ねながら息子の生活の形ができ、暮らしの中に生活バランスができてきた40歳に手が届く頃から、この先、親が病気になったり、亡くなったらどうして生きていくのか、今親としてどうしておくと良いのかを漠然とですが考えるようになっていました。

  さらに歳を重ねるたびに、親が子供より長生きすることなどあり得ないということ、当たり前なんですが現実視するようになりました。

 

  長く続いた措置制度の時代は、在宅生活か入所生活の二者択一の選択肢しかありませんでした。しかし平成15年の支援費制度以来、地域生活を進める国の方針で、生活ホーム・グループホーム・在宅生活・入所施設等と生活の場は選べるようになってきました。

  グループホームで京都市内に暮らすことが可能になって良かった、嬉しい制度ができたとおもいました。

  息子の様子はというと、出来そうでも出来ない、解っているようで解かってくれない、知らないようでも知っている、何とかなりそうで何ともならないことがまだまだ多く、本人も気持ちを持て余すことも多く、今後の生活方法をイメージしてみてあれこれ考えると、グループホームで仲間がいる中でお世話になるのが一番良いだろうとの思いが強くなりました。そのように思いながらも次へのステップが、なかなか進まないでおりました、入居先も簡単にはありませんでした。

  レスパイトやショートスティを続ける中で、息子が家を離れて宿泊することにも慣れて、家を離れる不安を和らげることができてきました。

  レスパイトは1日から始めて、4日間連続して過ごすことができるようになりました。

  グループホーム入居前には府下のショートステイ先を利用することになり、毎月父親と私とで交代に息子の送り迎えを行いました。冬は寒くて暗くてなかなか大変でしたが、息子ともどもよく頑張ったと思います。親が元気であればこそできたことでの気力体力がいる事でした。

  その後、現在のグループホームに入居することになりました。そしてそこには長年の友達と共に入居できたことは、知り合いがいることが強みであり、親子ともども大変に心強くスタートすることが出来ました。

今、ホームに入居した家族は、入居当初から様々な安心や不安を共有すべく、2ヶ月に1度は家族会を開いて色々な話をし、職員さんとも本人の現状とか将来について話し合いをしています。入居は自立生活のスタートであり、これからの大切な暮らしの場ですので、家族間の関わりが大切と思っています。

  本人は、週末に帰宅して、青年学級に参加したり、家族やヘルパーさんと出かけたりと元気に充実した生活を送っていると思います。

親も、週末以外は時間におわれる事もなくなり、ゆったりと流れる時間を何十年ぶりに過ごしています。

 

  福祉制度は、平成15年ノーマライゼーションの理念に基づいて導入された支援費制度が施行されて以来、大きく変わりました。その後に何度かの見直しがあり、障害者総合支援法につながっています。日常生活や社会生活を総合的に支援するための法律です。障がいの重い軽いにかかわらず、其の人の生活が守られると言われています。

  しかし、私たちの周りには制度のことを余り知らなかったりしてサービスを利用できてなかったり、制度の狭間にいて困っている人がたくさんいます。多くの方に広く制度が行き届いてほしいです。

  グループホームに関していえば、現在ではグループホームを運営していくことが大変厳しい状況ですとどこの事業所も良く言われます。
報酬設定がとても低く、赤字運営になっているところが多いそうです。
それには、報酬設定が上がり、報酬額が増える健全な運営がされなければなりません。日々お世話していただく世話人さんの生活が安定的なものとならねば入居者は、良い支援が得られにくいと考えます。
入居者側からは、現在家賃補助をいただいていますが、地域生活を永続的にするために、助成額の見直しが必要と考えます。
グループホームは地域での生活を可能にした制度ですから、障害のある人が安心して生活し続けていく場所である事を誰もが願っています。

  私も「息子の人生に幸あれ」と願いつつ、これからも親の務めを果たしたく思います。